大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和35年(ヨ)134号 決定 1960年4月11日

申請人 株式会社京都ステーションホテル

被申請人 株式会社京都ステーションホテル労働組合

主文

被申請人は、申請人に対する昭和三十五年四月二日付スト通告書に基く争議行為を行つてはならない。

(注、保証金一〇万円)

(裁判官 喜多勝)

【参考資料】

仮処分命令申請書

申請の趣旨

一、被申請人は、申請人に対する昭和三十五年四月二日付スト通告書に基く争議行為を行つてはならない

との御裁判を求める。仮に右が容れられない場合は

二、被申請人は、自ら若くはその所属組合員或いはその支援団体に属する第三者をして、申請人の営業を妨害する為、申請人所有にかかる別紙目録記載の土地建物に出入し若くは出入せしめてはならない

との御裁判を求める。

申請の理由

第一、被保全権利

一、主位的申請の趣旨記載の仮処分を求める被保全権利は、昭和三十三年四月二十四日付労働協約第十七条乃至第二十二条の規定に基き申請人が被申請人に対して有する平和条項履行請求権であり予備的申請の趣旨記載のそれは、前記労働協約第二十四条第三号に基き申請人が被申請人に対して有する争議行為に際する営業所立入排除約款履行請求権並びに申請人の別紙目録記載の土地建物に対して有する所有権乃至は占有権に基く妨害排除請求権である。

二、申請人が右被保全権利を有する原因の詳細は以下の通りである。

三、即ち申請人はホテル業を営む株式会社であり、その事業場を京都市下京区東洞院通塩小路下る東塩小路町八四九番地、京都駅構内ステーシヨンホテルに有するもので従業員総数百十数名を擁している。被申請人は申請人会社に所属する単一事業場労働組合であつて嘗てその所属組合員は六十数名を算していたが現在は僅か四名を以て構成されているものである。

四、申請人会社と被申請人組合とは昭和三十三年四月二十四日左記条項を含む労働協約を締結し、現在は右協約の有効期間中である。

第十九条 会社組合が反覆交渉し妥結しない事項は所轄の労働委員会に斡旋又は調停を申請できる。

第二十条 前条の調停が成立しない場合は相手方の同意を得て労働委員会の仲裁に附する事が出来る。

第二十一条 組合又は会社は調停案が示され一方又は双方がこの案の受諾を拒絶した後、十日を経て重ねて解決の為の交渉を試みてからでなければ争議の予告を行う事は出来ない

第二十二条 前条に定める一切の手続を経て尚解決しない場合に於て已むを得ず争議に入る時は十日以前に相手方に通告せなければならない。

第二十四条 組合は争議中と雖も左の協定を守る

二、組合員は機械設備その他の施設並に備品を使用移動破損させない。

三、組合員は組合事務所其の他会社の指定する場所以外に立ち入らない。

第七十一条 この協約の有効期間は昭和三十三年四月二十四日より昭和三十五年四月二十三日までとする。

第七十三条 会社及組合はこの協約の期間満了一ケ月前にこの協約の改廃に付き協議し期限満了までに成立しない時は二ケ月を限り有効期間を延長しその期間に妥結に導く様努力する。

五、申請人会社は増築に伴う営業方針の変更により専任の宴会係主任を必要としなくなつた為、昭和三十五年二月十三日付を以て当時宴会係主任であつた被申請人組合元組合長山田雅夫を接客係主任待遇(但し賃金には変更なく、事業所も同一事業所内での配置換である)に配置転換したところ、同人は右措置を不満とし不当労働行為であるとの言い掛りで同人を含む数名を以て総評京都一般産業労働組合連合会に個人加盟をした。ところがもと右被申請人組合に所属していた組合員は右総評加盟を不満とし若くは組合長不信任を理由として昭和三十五年二月二十一日まで右組合より脱退するもの続出し、同月二十一日自主的に京都ステーシヨンホテル従業員組合を結成、その構成員八十数名に達した反面、被申請人組合はその所属組合員僅か六名を算するに過ぎざるに至つた。

六、被申請人組合は昭和三十五年二月一日申請人会社に対し一律金五千円也の賃上要求の申入を為し団体交渉を継続したが妥結に至らなかつた。これより前、前記従業員組合からも申請人会社に対して一律金一千五百円也の賃上要求の申入がなされ数回に亘り団体交渉の結果同年三月十四日申請人会社回答千二百五十円を以て円満妥結に至つた。

七、然るに一方被申請人組合は敢くまで一律五千円のベースアツプを要求し申請人会社において再三協約に基き自主的交渉の申入を為したにも拘らず被申請人組合はその当時既に団体加盟をしていた上部団体たる総評一般労連所属員一名の交渉委員の出席を固執し理由なく団体交渉を拒否して来た。ところが偶々被申請人組合元組合長山田雅夫に関して職場秩序破壊の事実、出入業者との間における不正行為等の事実並に証拠が明白となつた為労働協約第四十八条就業規則第八十八条に基き三月二十日付を以て解雇した。

八、然るところ、被申請人組合は同年三月二十五日京都地方労働委員会に一律五千円の賃上げの外、組合長解雇撤回の斡旋を申請、三月三十一日前記委員会の仲介に基いて自主的団体交渉を開催する事となりその期日を翌四月一日午後三時以降と定められたところが被申請人組合は当初より右団体交渉妥結の意思なく既に争議行為突入の計画の下にあつたものが、三月三十一日不法にも争議宣言を申請人会社に通告することなくして争議体勢に突入、組合員一斎に休暇をとり若くは会社役員宅近隣に役員を中傷するビラを撒布する等の行為を敢てなしていた。四月一日地労委における団体交渉において被申請人は、既に従業員組合において千二百五十円の賃上げにて妥結しているにも拘らず敢くまで一律五千円賃上げという法外な要求を固執し、申請人会社のそのよつて来る計算の根拠の明示の要求に対しても何等明らかにせず団体交渉継続中一方的に右斡旋の申立を取下げると同時に翌四月二日一方的スト通告を発して同日午前九時より無期限ストに突入した。

九、右被申請人の争議行為は明かに労働協約第十七条乃至第二十二条所定の平和条項を無視して為された違法の行為である。よつて申請人は被申請人に対して右協約所定の平和条項履行請求権を有するものである。

十、被申請人組合はその所属員及び支援団体構成員等と共に前記スト宣言の後連日申請人会社前に赤旗を立て正面入口において右赤旗を結び合わせて宿泊客の出入を妨害し、或いは協約第二十四条にも拘らず、会社の指定しない社屋内に会社の制止を聞かずして立入りビラを撒布し或いは社屋内の壁その他にビラをはり或いは坐り込むなどあらゆる手段を構じて営業の妨害を続けている。

十一、しかし乍ら右被申請人組合の前記所為は明らかに前記協約第二十四条第二号及び第三号に違反する不法な行為である。よつて申請人会社は被申請人組合に対して前記条項の履行請求権を有すると共に別紙目録記載の申請人の事業所は申請人会社の所有占有管理に属するものであるから右所有権乃至占有権に基き被申請人組合に対して妨害排除請求権を有するものである。

第二、仮処分の必要性

申請人会社は国際的にも有名なるホテルを経営していて、時恰も観光シーズンである為今後約一、二ケ月間連日外人観光団その他邦人宿泊客の予約で満員の状況にある。しかして被申請人組合は連日申請人会社玄関前若くはフロントに坐り込むなど宿泊客の出入を妨害し特に四月二日午後八時頃西独観光団数十名到着の際は玄関にピケラインを張り気勢を上げてその出入を妨害せんとしたが支援団体応援者が少人数であつたことと会社の処置よろしきを得て事なきを得たが今明日中には総評傘下団体約三百乃至五百名を動員して大掛りな営業妨害行為に出る旨を通告してきている。かくては申請会社の営業が不能となるのみでなくひいては同ホテルの国際的信用を失墜し、その信用失墜に伴う財産的損失は測り知ることが出来ぬのみならず、観光シーズンに属する時期にして他のホテルも既に全部予約客で満員であり、もし外人観光団体等が被申請人組合等の営業妨害行為によつて申請会社ホテルに入れない事態が発生すれば、それら外人観光客を路頭に迷わせる結果となつて観光日本、観光京都を海外に宣伝している我が国及び京都市の国際的信用は地におち、我が国及び京都市に対して与える経済的精神的損失も又測り知れないものがあり、即時仮処分によつて争議行為若くは営業妨害行為を差止める緊急の必要性がある。

第三、よつて申請人は被申請人に対して有する労働協約上の平和条項履行請求権に基く争議差止の仮処分を主位的に求めると共に若し仮に之が容れられない場合は予備的に申請の趣旨第二記載の仮処分命令を得たく本申請に及んだ次第である。

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例